工房に運び込んだオルガンの部材・部品は整理をするだけで大変であった。 埃をはらい改良の方法を検討しながら仮組立にかかった。 工房で行う改良作業の最重点は 送風装置を一新することであった。
従来の吹子はいわゆる風箱直下型でばねで加重されていた。 ネオバロックの製作法には当たり前に使われた方法である。 私自身も初期にはこの方法を取り入れていた。 この楽器ではこの部分の修理が非常にしにくい設計であった。 皮革はいずれ張替えなければならないのだが、その際には大変な労力と費用を要する。 この際により音楽的でかつメンテナンスが容易な重りで加重する蛇腹型吹子を作ることにした。この改造により、貯風量が従来の何倍かに増えるので、整音の改良にも対応できるであろうと踏んでいた。 それでも、現場で整音作業を進めてゆく中で風量の不足に悩まされることになるのであるが ・ ・ 。
風箱直下の吹子を外したところ。 左の穴は風を供給する穴。 吹子の穴から見えているのは 各音の弁。 画像はペダルの風箱であるために弁の間隔は広い。 風箱直下の吹子だけではなく、送風機から最初に風を受ける吹子(Magazin吹子 貯風吹子)も蛇腹型に改造して貯風量を大幅に増やした。 |
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Posaune16'の共鳴管である。 このオルガンでは木管を使用している。 この機会に、板の厚さをご覧のように薄くした。 下部はそのままで上部に行くにしたがって薄く削った。 上部は音圧が低い部分であり厚みは全く必要がない。 音色にも良い影響をすると言われている。 そして、共鳴管が半分以下の軽さになり、整音が楽になるのだ。 |
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HWの低音部のタッチが悪い元凶。 長い回転軸、剛性不足の軸材。 試しに仮組をしてその状態を確認してから再び外した。 |
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前記の回転軸部分(ローラーボード Wellenbrett)を作業場に持ち込んだところ。 外径12mm、肉厚1mmの鉄パイプを用いて作り直した。 材質がアルミニュームよりも強いだけでなく、径が大きいことが効く。 さらにこの軸よりも風箱側でメカニズムの行程を減らして弁の開きを必要最低限にする、その結果この軸への負担は以前よりも減ることになる。 鍵盤での感触は劇的に改良されるはずである。 |
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この他、工房で準備できることを順次行った。 金属管の調律スリットを閉鎖することもかなりの数行った。 調律スリットが深すぎると音色を損なうからである。 整音の改良も予めできる範囲で行っておいた。 現場へ行く前の予備整音は作業終了後の整音の安定に寄与する大切な作業であると認識している。 予め調整しておいて現場では大きく変えなくて済むようにする。 金属であるから、後の自然な変化も少なくなる道理である。 |
夏期には パイプ台の穴をねらって土蜂が産卵に来る。 そこら中に風穴があるオルガンの部材は格好の産卵場所になってしまった。 毛布で覆って隠したりしたが、それでもかなりの風穴を塞がれてしまった。 |
パイプの傷みは少なかった。 非常に調律を行いにくい設計であったため人がパイプに近づけなかった、そして事実あまり調律が行われなかったことが理由であろう。 パイプの作りは総じて無難であった。 |
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楢の枠組み構造にパネルを入れる方法であらたに壁面を製作することとした。 採寸をしても 左右で寸法が異なっていたり、何がBoschの設計値であるのか判然としないため、現場合わせができるように工夫をした図面を作成して(有)日章装備の畑さんに製作を依頼した。 この作業追加に伴いS学院では予算超過が問題になったようであるが、出来上がってからはこの作業をして良かったと理解していただけた。 |
地震対策も準備を行った。 しかたなく、オルガンが倒壊しても人的被害が無いようにすることに主眼をおく作業とすることにした。 オルガン内部に施せた補強は、鉄骨に2本の筋交いを溶接できたにとどまった。 建築側で後ろ壁に用意していただいたアンカーを使うことができる。 それに期待するのみであった。 |
使用略語
HW Hauptwerk 主鍵盤部 I 鍵盤
SW Schwellwerk スェル鍵盤部 II 鍵盤
Pos Positiv ポジティフ部 III 鍵盤
Ped ペダル鍵盤部前のページ 次のページ
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Angefangen 15.Nov.2003