S学院のオルガン 移転・改造

III 現場での組立 5


 HW Cis側の演奏メカニズム、風箱直下の様子。

 上へ伸びているのは、演奏台からの回転軸機構。 当初あまりにもねじれ強度がない材料が使われていたので作り直した部分。

 メカニズムの自動緊張装置が従来は演奏台の内部にあり、手が入らない部分であった。 筋交いが入っている木枠を作りこの部分で自動調整が行えるようにした。

 左の黒い部分は 直角てこ が付いている部分、この上には鉛の重りが乗っている。
低音部は弁が大きく多少メカニズムの緊張が大きくて良いので、鉛は中央には乗っていない。

 オルガン中央上部にある十字架と旭日旗のような飾りは、自分にはかなり目障りであった。 あまりにも安易なデザインだと感じ変更をしたかった。 しかし、同窓生などにはそれなりの思い入れもあることであり変更は断念した。

 学院には相談しなかったが、十字架の4端に金箔を押して多少のメリハリを付けた。(画像が悪くあまりはっきりとしない)

 この旭日旗部分とその下のBW周りが一体に作られていた。 トラック輸送が出来なかったため切断して運んだ。 その切断痕を目立たなくするために 金箔押しの飾りを入れた。

 平板なデザインのオルガンに多少アクセントが付いてよくなったと思う。

 学院長も喜んでくださりホッとした次第であった。

正面のパイプの整音作業。

 風圧を変更しているのでいずれにせよパイプに手を加える必要があった。 これはPedalのPrincipal 16' Aのパイプ。 歌口のうわ唇を切って高くしている。 これまでの力ずくで鳴らしているような整音から、パイプの自然な発音を引き出す整音にするように努力をした。

 同様な作業、 歌口を切る前に、切る位置を罫書いている。 研磨してきれいになったパイプに指紋を残さないように手袋を使用している。

 右には鏡が置いてある。 歌口の様子を色々な視角で観察するために使用する。

 前記の作業に先立ち、歌口の高さをいくつかのパイプで試しをして決め、その間を専用のグラフ用紙で補間する。

 このグラフ用紙は16音目で半分になる等比数列で作る。

 このオルガンでは、整音作業中にかなりの数のパイプで、その長さが不足した。
それまでの貧弱な整音に合わせて長さを切った結果、まともに鳴らすためには長さが足りなくなるのである。

 現場では、ついに適当な厚さのパイプ材料が足りなくなってしまった。 自分も思いつかなかったのであるが、この方法は、下田君(その後ドイツFurtwangenの時計学校で時計製作の勉強に進んだ)が現場で思いついて始めた。 鋼鉄の丸棒を使ってパイプの材料を圧延しているのだ。

 窮してもめげずに次の道を拓く発想は大切なことだ。 

 整音作業に先立って、歌口を切っている。 この大きさのパイプでは材料が厚くてナイフでは作業が困難。 動いていて画像でははっきりしないが、Reisshakenという工具を使う。 V字溝を掘る道具である。

 左に見えるナイフは、仙台の道具屋さんで見つけた両刃のナイフ。 日本の伝統工具鍛冶の作では珍しく両刃である。 整音に適しているので店にあったものを全て買い占めたが、それが最後になってしまった。
これを作っていた鍛冶屋さんも仕事をやめたそうだ。

 その右の黒い柄の工具は パイプの下唇を引き出すためのもの。 30年近く前にドイツのLindauの町で拾ったおたまの柄部分。 落ちているのを見たときに即、この工具になるとひらめいた。

 使用略語
HW  Hauptwerk 主鍵盤部     I 鍵盤
SW  Schwellwerk スェル鍵盤部 II 鍵盤
Pos  Positiv ポジティフ部     III 鍵盤
Ped      ペダル鍵盤部


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Angefangen 15.Nov.2003