あるホールのオルガンパイプ修理 2
画像を使った記録と問題の検証


大学オルガニストの要請によって、報告・修理提案と見積を作った。 その条件として

 1. Y社オルガン部門ができない仕事だけを引き受けることはしない
 2. 以降このオルガンの保守を当工房ですることを前提とする。
 3. 観察期間が無いので、作業中に他の問題が出てくる可能性を理解して欲しい。
 4. 今回の作業である程度の地震対策を行いたい。
 5. パイプを修理するとどうしても作業の痕跡は残ることを理解して欲しい
などを挙げた。

 Y社の不甲斐なさを見るにつけ、それならば自分でやってやろうという気持ちは強くなる。 かなり難しい作業であることは承知していた。 観察しているうちに、自分の工房の設備と技術で修復できると確信が持てた。
難しい作業をこなすということは我々のような物作りには魅力的なことである。

 パイプを新品にする必要は感じなかった。 見ばえからすれば新品の方が良いが、10年以上毎日鳴ってきたパイプは貴重である。 見ばえよりもそのパイプを使えるようにするのが楽器作りとしては当然の判断である。

 確かに私も、この事案はCasavantの責任だと思う。 報告書にはその旨記した。
しかし、現実には補償交渉は困難を極めるであろうこと、Y社は窓口として頼れないであろうこと、裁判にすれば裁判地はカナダになるであろうこと、現にDis以外のパイプのつぶれが進行中であり対策は急がなければならないこと を勘案して補償交渉は薦めなかった。


 Casavantへは学校とY社から報告が行っていた様である。 さすがに責任があると思ったのか、CasavantはY社へ新しいパイプを原価で出すので交換して欲しい旨 伝えてきたそうである。
学校からはCasavantからの新しいパイプに交換する作業を私に依頼したい という話があった。
私は、すでに記したとおり、新しいパイプにすることには賛成しなかった。
Y社にできないならば なおさら やりたい という思いもあった。

 あるオルガニストから聞いた話である。 オランダのRail兄弟オルガン工房のオルガンが東京のある教会にある。 正面パイプの歌口の両側がゆがみ始めていることに気付いたオルガニストは写真を送った。
依頼するまでもなく、オランダから処置をしに来たそうである。 オルガニストが早めに気付いたこととオルガン製作者が直ぐに対応したので、修正も比較的楽であったようだ。

Casavantは結局私の問合せに返事すらよこさなかった。    なんという対応の違いであろう。


 大学はオルガンを私に任せる決断をした。 作業は早いに越したことはない。 つぶれは進行中である。 私はDis以外にも歌口が完全につぶれるパイプが出ることを恐れていた。 ホールに時間の余裕が出る最初の日を作業開始日とした。

4t積みのトラックを手配し、準備をして現地へ向かった。 渋滞がない早朝に出発して早めに到着、車内で朝食を摂り、早速作業を開始。

 オルガン内部と天井の清掃、通路の雑巾がけ から始めた。
オルガンの内部の構成を理解して、作業をしやすい環境を作るにはうってつけの作業である。

 この日、大学オルガニストも朝早くから作業に立ち会ってくださった。 時には手を貸していただいた。 オルガンを自分のことのように大切にしているオルガニストを見ると、できるだけオルガニストの意向に添うように努力したくなるものである。


 

 オルガン天井にトラス構造の梁を取り付けパイプを吊るす。 歌口がつぶれているパイプの足にはあまり力を掛けられないのでロープの扱いには少々工夫を要する。

 滑車で力が3倍になるようにしてあるので、一人でも16'パイプを持ち上げることができる。 あとはパイプをぶつけないように手を貸して確実に地上に降ろすだけである。

 

 最後のCisパイプが地上に下りたところ。
いかに準備をしていても、非常に柔らかな材料でできているパイプであるので神経を使う。 全てが下りたときにはホッとするものである。

 短時間の輸送であるので、トラックの荷台に毛布をクッションにして寝かせて工房へ輸送した。

 今回も日立物流の協力を得た。





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Angefangen 17.Feb.2004