安全を確保するために有効なものは活用したい。 この分野ではヨーロッパの安全装置に完全に軍配が上がる。 山野氏 も「木工刃物の形状」として同意見を述べておられる。
わが国で木工機械の安全装置を使っているところは皆無といえる、職業訓練校や国の機関においてさえである。 口には出せないが、その安全装置があると仕事にならないからである。 事故が起きると、安全装置を使っていなかったと責められるのであるが、それは同時に仕事をするなと言っているのに等しい。
日本の安全装置は 「指を切るな」 ということばかり目を引かれ、本質を捉えていない。 ドイツの学校では「指を切らないほうがよいが、指を切っても死なない、それよりも材料の反発が危ない、内蔵破裂で死にいたるから」 としつこく叩き込まれた。
それでは何に気をつければ材料の反発を防げるのか、それは切削工具の構造を適切に選択することが第一である。 しかし、日本では 「安全」 がこれほどさけばれながら 反発を防ぐ工具はほとんど見かけない。 「規則を守っていれば事故は起きない」などと言いながら、その実、使えない規則で、法律を遵守する精神をだめにしてきたのは誰か? 悪貨は良貨を駆逐する。 私は『交通の安全を考える』ページでも同じことを言っている。
作業性の悪い機械は事故につながりやすい、機械の選定に作業性を考慮するのは当然である。 しゃがまなければ寸法を読み取れない機械、回転が止まるまでに時間がかかる機械、定規が一回で固定できない機械、集塵が悪い機械などは良い木工機械とは言えない。 より良い機械を購入し、また必要を感じるたびに改良を施してきた。
「熟練」という言葉も消えてしまったように思う。 常に考え、作業に習熟してゆくことは安全の面からも大切なことである。 習熟するということは 単に数をこなして慣れることではない。 常に考察が伴って習熟ということがあることを忘れてはいけない。
国内で研磨に出すと 刃の後の突起を鋭くしてきてしまうことがあるので注意をしなければならない。この丸鋸刃はドイツのLeitz製である。ドイツでも非常に信頼がおける銘柄として知られている。 しかし、残念ながらジャパンライツ刃物(株)の研磨部門はドイツの工具研磨マイスターのレベルにはないようである。 せっかく良いものを提供できても完全な理解のもとにアフターサービスができなくては信頼を得ることができない。
この件に関して、2001年6月ジャパンライツ社の社長直々の来訪を受けた。 当初『挨拶に伺いたい』との電話であった、ここの表記との兼ね合いは全く脳裏に無かったのである。 私としては珍しく来訪を受諾したところ、『研磨部門での対応を改善した』との説明をしに来られたのであった。 個々の作業担当者がどこまで自ら理解するかに掛かってくることである、 今後の改善に期待したい。
丸鋸の刃の形状である、少々汚れた刃ではあるが判って頂けると思う。
超硬合金の刃の後ろに刃ではない突起がある。 この突起は刃の先端線よりも少し低い。 次の刃が一回に切削する量を規制する。 すなわち、仮に材料が刃の上に急激に落ちても刃の食い込み量は少ない、反発は手で押さえられる。
そして、丸鋸の後ろに出ている鉄のくさび、 このくさびの厚さは 丸鋸の身よりも厚く刃先よりも薄い。 丸鋸の刃の最も高いところよりも2-3mm低く設定する。 丸鋸の刃といっしょに上下し傾斜する。
仮に材木がくるって刃をしめつけようとしてもくさびがそれを防いでくれる。 また、鋸刃の後ろに廻った木っ端などを巻き込むこともなくなる、そして鋸刃の後ろに手をやるときにも危険がなくなる。この刃を輸入販売している会社もその必要性を理解していないようである。 本当はそのような会社が啓蒙の先端に立つべきではないであろうか。
15mm-30mmの可変溝きりカッターである。 超硬刃の前には必ず刃ではない突起がある。 前記の鋸刃と同様、一回の切削量を制限している。
これもドイツのLeitz社の製品である。 われわれのように量産をすることがない工房においては非常に有用な刃物である。 溝幅を0.1mm単位で設定でき、かつその設定値に再現性がある。
面取り工具である。 この工具は各種の面形状を刃物を交換することによって削り出せる汎用刃物である。 この工具にも刃の手前には切削量を制限する突起が出ている。 その突起は材が当たった場合にも食い込まないよう逆の傾斜がついている。
特に最初に材を送り込むときにはこの種の刃物は危険であるが、この装置が付いていることによって安全性は飛躍的に向上する。
手押しかんな盤の安全具である。
一見邪魔なようにみえるが、この仕掛けは非常に有効である。 スイス、スェーデンで法制化され、後にドイツでも法制化された装置である。重要なポイントは、これらの仕掛けが作業に全く支障がないことである。
どれほどお役所が使用を強制しても、作業に支障が感じられる安全具は結果的に使われることが無くなってしまう。 単に事故責任を追及するための法律となってしまうのだ。
上記の装置の使い方についてMailで質問を受けました。 使用中の様子を画像に撮りました。
この安全具の欠点は
作業者が安全具の位置を意図して決めなければならないことです。左の丸鋸刃は手持ち電動丸鋸用の国産品である。 切削量を制限する突起がついている。 日本でも全く知られていないわけではないのに、何の啓蒙もされていない。
右の溝きりカッターは 現在でも販売されている。 ヨーロッパの常識からすれば犯罪的である。
私は自作の刃物にも反発防止のために切削量を制限する部分をつけている。
自動かんな盤の反発防止装置
自動かんな盤から材料が反発することもまれにある。 材料が動く方向を進行方向のみに規制する強力なつめが見えている。 材は一旦このつめをくぐると戻ることはできない。ヨーロッパでは30年以上前から法制化されている。
ドイツUlmiaの小型丸鋸盤には鋸刃の後ろに付けるくさびが付属していました。 しかし、これは国産の薄身の鋸刃には厚すぎます(切れ味は圧倒的差で国産の鋸刃が良いし、身の薄いものがある)。
自作は困難と思っていました(硬い鋼材を加工しなければならない)。修理をしながら考えていたところ自作の方法を思いつき、製作しました。 古い手鋸を切断砥石で切り、整形したものです。厚さはぎりぎり丸鋸身と同じですが、作業の安心感は格段に向上します。
古い工具は決して捨てるものではありません。 工夫次第で色々使えるものです。
これほど有用でヨーロッパでは20年以上前から当然になっている工具や仕掛けについて日本ではいまでも知られていないのである。 日本の労働安全についての研究はどうなっているのであろう。
この種の安全装置を国内で使っているのは、知る限りでは一部のオルガン製作者のみである。 某国立短期大学の木工室にはヨーロッパで勉強してこられた先生がおられる。 ここに述べたような安全装置を取り付けるべく予算要求をしたが受け入れられなかったようである。
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