良く受ける質問
二段鍵盤、多いものでは5段鍵盤のオルガンもありますが、鍵盤が一段のオルガンもあります。 一段鍵盤の楽器の程度が低いということは決してありません。 その目的がことなるだけです。
鍵盤にはそれぞれ役目があります。 各鍵盤はそれぞれひとつの完結したオルガンです。特徴を持ったオルガンがいくつか一緒になってひとつの大オルガンを作っているのです。
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演奏の途中でいろいろな音色に気付かれたことと思います。
鍵盤では音の高さを弾き分けるのですが、あのつまみは音色を選択するためにあります。 実際にはつまみを引くことによってある音色のパイプ列(低音から高音まで鍵盤の数だけある)を選択して、そのパイプ列を鍵盤から演奏できるようにしているのです。あのつまみは日本では"ストップ"と呼ばれています。 日本語では「音栓」と言います。他に「レギスター」「レジスター」とも呼ばれます。 この言葉は つまみを指す場合もありますし、パイプ群を指す場合もあります。
オルガニストは「ストップを入れる」と言う場合には つまみを引き出します。 「ストップを止める」場合にはつまみを入れます。
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そのストップ(音栓)の最低音のパイプの長さをフィート単位で表示します。 1’(1フィート)は約30cm
記譜と同じ音高になるストップは 8' です。
記譜よりも1オクターヴ高い音を出すストップは 4' です。
記譜よりも1オクターヴ低い音を出すストップは 16' です。周波数が倍になると1オクターヴ高くなります。 周波数とパイプの長さは反比例します。 パイプが2倍の長さになると音は1オクターヴ低くなります。
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多くの場合、外から見えているパイプはごく一部のパイプです。 内部にはいろいろな形の大小のパイプが並んでいます。 概して外部のパイプ(Prospekt)は大き目のパイプです。 当HPの画像にはオルガンの内部の様子が見えるものが多数ありますので探してみてください。 (例:仙台白百合学園のオルガンの内部)
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材種で分類すると 金属管 と 木管
発音形態で分類すると 唇管 と 簧管(フルー管 と リード管)
音色で分類すると 唇管では Principal族 フルート族 弦音族
簧管では トランペット族 レガール族その他 フィート律がオクターヴ関係にあるパイプ と 五度、三度の関係などのパイプ
一列で構成できるパイプないしはストップ と 複数列のパイプで構成される音栓など いろいろな分類法があります。
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オルガンのパイプは一本一本が笛です。 風を送りこむことによって鳴ります。 パイプを口で軽く吹けば簡単に鳴ります。
昔はオルガンの後ろに吹子があり、手または足で吹子を操作して風を送りました。 誰かに吹子を押してもらわなければ 練習もできなかったのです。
現代では電動送風機を使って送風します。 おかげでスイッチを入れればいつでもオルガンを弾くことが可能になりました。
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いえ案外小さな物です。 かなり大きなオルガンでも送風機は1馬力(750W)程度、小型のオルガンでは電気代は気にしなくてもよい範囲です。 電子オルガンよりも能率は良いのかもしれません。
オルガンの送風機にはそれなりの特性が要求されます。 そのためいくつかの会社がオルガン用の送風機を生産しています。 静粛性、風圧/風量特性など工業用の送風機とはことなります。
注文生産ですので、すぐに手に入るとはかぎりません。 送風機が故障するとオルガンが使えるようになるまでにはかなり時間がかかります。 説明書に従った注油を忘れないようにしてください。 そうすれば寿命は相当に長いものです。
万一故障が発生した場合、当工房には何台かの予備の送風機がありますので、ご相談ください。
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金属のパイプは 錫と鉛の合金 で作られます。 合金の比率は各種です。 錫の含有率で表示します。純鉛で作るオルガン製作者もいます。
一般には正面のパイプ(Prospekt)は75%から80%、やわらかい音色には30%から60%程度の合金を使用します。
溶かした合金を布を張った水平な机の上に流して板を作ります。 裁断してカンナをかけ、表面と厚さを整え、丸めて半田付をします。
他に銅、亜鉛、真鍮でパイプを作ることがあります。 私の経験ではいずれも錫鉛合金に勝ることはありませんでした。
錫鉛合金を何故使ったのか? それは記録がありません、今となってはわかりません。 想像するには、昔しの技術では工作の可能性があるのはこの金属だけだったのではないかと思います。
ローマの水道の末端配管は同様な製作法で作った鉛管だったようです。目次へ 6.Aug.99
斑点のあるパイプをオルガン内でご覧になった方は多いと思います。
意図して斑点を作るのではありません。 金属のパイプは 前記のように錫と鉛の合金 で作られます。 溶融した合金が冷えて固まる時に融点が高い鉛から固化し始めます。 一部の鉛が固まるとその周囲には錫の含有率が高い溶融合金が残ります。 最初に固化した鉛の核を中心に斑点模様が現れるということです。
Sn50%前後でこの模様は明瞭に現れます。 英語圏ではSpotted Metallと呼んで好んで使います。 ドイツ語ではNaturguss(自然鋳造)と呼んでいます。おそらく鉋がけなどの手を加えない自然のままの状態を意味しているのでしょう。鋳造台に流した時の画像(溶融状態) 表面は鏡のようです Sn.40%合金
鋳造台上で冷えて固化した時の画像、同じ金属、斑点が明瞭
戻るボタンで戻ってきてください。目次へ 4.Juli.09
パイプの長さで音高は決まります。 したがって調律はパイプの長さを決めることでもあります。
整音作業の進行と平行して、パイプの長さも詰めて行きます。 整音が終わったときにちょうど良い音の高さになるように作業を進めるのです。 オルガンでは整音と調律は密接な関係があります。整音と調律については音を高くする場合にはパイプを短くすれば良いのですが、短くしてしまったものは伸びてくれません。 植木なら根元に水をやれば良いのですが・・・
何らかの方法でパイプの実効的長さを変えてやるようにします。 多くのパイプは少し短めに(音は高め)切り詰め、調律用の円錐工具(Stimmhorn)を使って頭を絞って正しく合わせます。
木製閉管では、頭部の蓋を動かして調律します。 金属製閉管では頭部の金属製の蓋をスライドさせて調律する方法もあります。 これは比較的新しい方法です。 従来は閉管の蓋は整音後に半田付けしてしまいます。 その場合、調律は歌口の左右に半田付した金属板(髭 Bardと言っている)を開閉して行います。
Mixturなど 複数のパイプが同時に鳴る音栓の場合、一度にパイプが鳴ってはくるいを聞き分けることは困難です。 パイプに綿やモールなどを詰めて音を止めて順次調律を行います。 この時大切なことは 音は止めても風は止めないことです。 風を止めると鳴っているパイプに影響を与えてしまいます。 パイプを抜いて音を止める方法も風が逃げて鳴っているパイプに影響を与えます。
目次へ 6.Aug.99 4.Juli.09追記
逆です、オルガンは紀元前から存在し現在の形になりました。 オルガンを真似て電子オルガンを作ったのですから、電子オルガンがパイプオルガンみたいなのです。 なお、エレクトーンは日本楽器が作る電子オルガンの商品名です。
ついでに、オルガンとは パイプオルガンのことです。 リードオルガンも電子オルガンも代用楽器として世に出たのです。 私はリードオルガンも電子オルガンも否定するものではありません。 しかし、それぞれオルガンとは違う世界を創り出しているといえるでしょう。
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オルガンとはパイプオルガンのことです。 日本には最初にリードオルガン(いわゆる足踏みオルガン)が移入され、広く教育の現場で使われました。 そのために、オルガンというとリードオルガンを思い浮かべる方が多いのが現状です。 しかし、リードオルガンはパイプオルガンの代用楽器として発生したものです。
オルガンの起源は紀元前にさかのぼります。 これもパイプが発音体でした。
オルガンは2000年以上の歴史を持っています。 リードオルガンは19世紀の発明です。 バッハが作曲した時代(18世紀)にはパイプオルガンしか無かったのです。リードオルガンはその特徴(演奏者が自ら風を操作して表現できる、フリーリード独特のやわらかな発音など)を生かした独自のジャンルを形成したことは忘れてはなりません。 しかし、それはリードオルガン、またはハルモニウムの音楽です。
音楽大学でオルガン専攻といえばパイプオルガンの音楽を専攻することです。 またオルガン音楽といえば同様パイプオルガン曲を指します。 オルガン音楽を作った作曲家は皆パイプオルガンのみを念頭において作曲しています。
オルガンは必ず吹子とパイプと鍵盤を持っています。 電子オルガンをオルガンというのは適切ではありません。
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楽器の大きさによって違います。 ポジティフのように小型のものでは2〜3カ月、大型のオルガンでは2年以上かかるものもあります。 これは実際の作業に要する期間です。
注文を受けてからオルガンが完成するまでの期間は、工房がそれまでに受けている仕事の量によってまちまちです。 契約順に作業を進めますので、契約が少ないときには納期は短くなります。 その逆の場合には当然長くなります。 長い場合には納期が10年というオルガン製作者もいます。
2年から5年の納期というのが一般的なところでしょう。
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整音と調律の違いについてはしばしば質問を受けます。
音の高さすなわち周波数を扱うのが調律です。 基準ストップ(普通はOctav 4'など)の1オクターヴを適切に12半音に割り振ること、そして、それを上下に広げて行くこと。その調律をさらに別のストップに写して行くことがオルガンの調律作業です。 その内容は物理的な作業です。 実際には基音または倍音と 倍音との間のうなりを聞くことによって周波数の関係を定めて行きます。 絶対音感は役にたちません。 最初の音1つ(一般にa'=440Hz)があれば、他の音は全て引き出すことができます。
整音は調律とは対照的に 感覚 の作業です。 発音、音色、音量、ストップ間の音の融合性などを決めて行くのが整音作業です。
このような音の要素は 建築空間や聴覚や聴取位置などの影響を複雑に受けます。 物理的には決定しにくい内容です。 主にパイプの歌口付近をいじって整音作業をします。 音量を増やすと音色も発音も一緒に変化することもあります。 調律を詰めて行くと整音が変化することもよくあることです。オルガンの調律と整音は密接に結びついています。 整音を進めながら調律も徐々に合わせて行かなければなりません。 整音が良い状態になった時に丁度調律も正しくなるように作業を進めなければなりません。
整音において発音体をいじらないピアノやチェンバロでは最初に調律をしてから整音ができます。 オルガンではそのようにはできません。 一度 整音・調律 を終わったオルガンでは大きく整音をしなおすことは困難です。 パイプの長さに余裕がある場合には整音をしなおす余裕があります。
整音の実際については坂崎さん製作の 仙台フォト日記 を参照してください。
目次へ 18.Aug.99
デザインの決定
外観のデザインだけでなく、オルガンの大きさ、Disposition(ストップ構成)などを決めます。 施主の意向、建築空間とのかかわり、使用目的、技術的可能性、使える費用の制限 などを考慮して決定します。 基本設計 Mensur(パイプの寸法)や材料を決める、Werk(部分オルガン、すなわち各鍵盤)の配置をきめる、メカニズムの通り道を検討する、吹子の配置と送風管の通り道を考える、ゲホイゼ(筐体)の作り方と耐荷重の検討 など 全体の構成を決めます。 実施設計 オルガンの各部の設計、それらの相互関係を示す全体図などを順に作成します。 部分図の多くは実寸で描きます。 風箱の図面は製作の時型紙となります。 部分図を書いては全体図に書き込み、必要に応じてまた部分図を修正するという作業が続きます。
忘れているものはないか、相互関係は正しいか、現場で組み立てることが可能か、運送や現場への搬入は問題無いか、材料の手配は可能か など多くのことを同時進行で検討しなければなりません。
発注 工房で作れないもの、あるいは外注が適切なものは発注を急がなければなりません。 オルガンに使うものは特注品など納期の長いものが多いのです。
当工房では 送風機 金属パイプ 鍵盤 ゲホイゼ はほとんどの場合外注に出しています。 オルガンの規模によって外注に出す範囲は変わります。
製作 一般にオルガンの中心になる風箱から製作に入ります。 その他、演奏台、木管パイプ、メカニズム、パイプ台、音栓メカニズム 送風関係 などを製作します。 ほとんどの作業は木工作業です。 予備整音 パイプは作ったままでは音はでません。 工房で一応音が出て音の高さが近いところまで調整をしておきます。 現場の音響条件を想定して作業をしますが、もちろん完成状態にはできません。
予備整音をしておくことによって、現場での作業を減らせる、初期変動を少なくすることができるなどの効果があるとかんがえています。 オルガン製作者によっては予備整音をしない人もいます。仮組み 楽器の規模によりますが可能なかぎり工房で仮組みを行います。 もちろん大きな楽器では一部の仮組みしかできません。 作業条件が整った工房での仮組みをしておくと現場での作業が非常に楽になります。 工房搬出・現場搬入 工房からの搬出準備は楽器本体だけでなく、現場で必要になる工具・機械・足場・運搬具・養生用品・滞在生活用品などに及びます。 現場での組立て オルガンの外郭Gehaeuseの組立に始まり、風箱、吹子の設置、導風管の接続、演奏メカニズムと音栓メカニズムの接続、大きなパイプの固定、大きなオルガンでは電気配線もあります。オルガン内部の電気配線照明の取り付け、オルガンの建築への固定、などなど技術的な作業が続きます。
そして風を入れていろいろなテストが繰り返されます。 オルガンを組みたてた後では手が入らない部分も多くあります、注意深い作業で完璧を期さなければなりません。 そしてメカニズムの調整を一通り終わると 整音の作業に入ることができます。 整音作業は感覚に頼る作業です、静けさと気持ちの安らぎが必要です。 他の作業と並行して行なうことはできません。 まして建築工事と並行して行なうことは不可能です。 整音作業をしながらメカニズムや風の供給に改良を加えたくなる場合もあります。 時には整音を中断してメカニズムや吹子に変更を施すこともあります。
整音と調律は同時に進行して行きます。 これはピアノやチェンバロと異なっている点です。 調律が丁度合うところで整音の状態も一番良くなるように両方から追いこんでゆきます。 整音で音色や音量を少し合わせては音の高さを合わせ(パイプを切り詰めてゆく)、また整音を進めながら調律も近づけてゆくことになります。 最後に全体の調律を行なって完成になります。 調律をするとその影響で他のパイプの調律がくるいます。 ですから、調律は完成までに何回か繰り返して行なうようにします。
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多くのオルガンは左右対称にデザインされています。
一般に向かって左側に C,D,E,Fis,Gis,B のパイプ
右側に Cis,Dis,F,G,A,H のパイプが配置されています。
Cのパイプがある側を C側 Cisのパイプがある側を Cis側 と呼んでいます。 オルガン製作者は右側、左側と呼ぶことによる混乱を避けるためにこのような習慣を身につけています。オルガンのデザインは必然的に完全に対称にはなりえません。 C側のパイプはかならずCis側のパイプよりも半音分長くなります。 時々、外観が完全に対称なオルガンがありますが、これはCis側のパイプを必要以上に長くしてC側と同じ長さにし、音の高さを合わせるために背抜きを施しているものです。
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オルガンも人が作るものです、永久不変なものではありません。 定期的な点検や調律が必要です。
・定期調律保守
オルガンの規模や構造によって必要となる頻度は異なります。 一般的には年に1度 定期的に調律保守をしておくことをお奨めします。 機構が単純なオルガンの場合には3−4年に一度でもよいでしょう。
定期調律保守には他にも意味があります
定期調律保守の折にオルガン内部の通路などを清潔に保っておくことも重要です。 ほこりだらけのオルガンではつい保守の手も引っ込みがちになります。 演奏会直前にスーツ姿でもオルガンのなかで横になって調整をしたりすることにためらいのない状態にしておくのも保守作業の一つです。 そのような状態になっているということは結果的にオルガンの寿命に影響するでしょう。 保守に来て鍵盤まわりばかり磨いているような調律師は疑ってかかるべきです。 鍵盤まわりの掃除はオルガニストの役目です。 オルガン内部の清掃はオルガン製作者の役目です。オルガンのパイプは調律に際して金属に疲労を与えます。不要な調律は避けるべきです。 何の判断もなくやみくもに調律をするような調律師も疑ってかかるべきです。
・リード管があるオルガンの場合
リード管は他のパイプとの間で調律の差が出やすいので、頻繁に調律を必要とします。 特に気温が変わった場合には調律を要します。 リード管は何回調律をしてもいたむものではありません。 必要と感じたらば調律をすればよいのです。 オルガニストがリード管の調律を練習し、自分でそれをするようになれば理想的です。 オルガニストが意欲を示せば、オルガン製作者は調律の練習に協力するはずです。
ホールのオルガンなどの場合には演奏会立会いを含めてオルガン製作者をリード管の調律に呼んで頂ければ安心です。・大規模保守
一般に10年に一度はオルガンの大規模保守をするべきであるといわれています。 オルガンの使われ方・規模・状態・環境などの要因に左右されます、その時期は一概には言えません。 定期調律保守を実施していればその時期はおのずと判って来ます。 良心的なオルガン製作者であれば事前に「そろそろその時期が近づいていますよ」ということを早めに伝えるはずです。もっとも注意を要するのは、それまで全くそのオルガンに関っていなかったのに、突然「この楽器は大規模保守が必要だ」などと言い出して見積書を送りつけるようなオルガン製作者です。 普段の観察なくそのような行動に出るオルガン製作者がいれば警戒してください。
大規模保守では普段の定期調律保守作業では出来ないような作業を含めて行ないます。
原則として全てのパイプを外に出してパイプ内部の掃除を行ない、オルガン内部のパイプの間などの掃除も行ないます。 パイプをどけないと出来ない部分の点検を行ない、必要であれば調整や修理を行ないます。オルガニストが希望する改良、通常の定期調律保守で見つかった問題などの修正を実施します。 そのオルガンが完成した後の研究によって得た知識や技術を使ってオルガンを改良するよい機会でもあります。 前進のないところには後退しかありません。 常に向上しようとしているオルガン製作者はオルガンの本質的な改良に適切な助言をすれでしょう。 例:愛媛県北条市聖カタリナ学園の大規模保守
整音のくるいは徐々に起きるため気付きにくいのですが、整音も見なおさなければなりません。 普段は手がとどかない正面のパイプ(Prospekt)も足場を組んで整音を見なおします。 その結果は前進のあったオルガン製作者か否かを如実に音で聴かせてくれるでしょう。
メカニズムの調整も総合的に行います。 普段の調整は部分的になりがちです。 大規模保守の機会に全体的に調整をしなおす必要があります。 磨耗した部品は修理を施します。 手製の部品だけで作られているオルガンの場合には部品交換ということはまずありません。大規模な楽器で工業製品を使っている場合それの消耗の度合いによっては部品交換が必要になります。
通常、送風機は注油を怠っていなければ交換の必要はありません。 20年以上を経過して、気になるようであれば大規模保守の機会に交換しておくのは悪くないでしょう。 故障をしてから注文をしても、手に入るまで何ヶ月もかかる場合があります、その間オルガンが使えなくなる恐れがあります。 当工房の場合予備の送風機を持っておりますが、全てのオルガンに適応できるとはかぎりません。
・保守作業を誰に依頼するか
基本的にはオルガンを製作する能力と条件がそろっていることが条件でしょう。 『部品がないから』とか『国内では修理が出来ないから』などというオルガン製作者がいたらば疑うべきです。製作者自身が保守を行えるのであればそうするべきです。 少なくとも、国内で作られた楽器であれば当然製作者自身が全ての保守に当たるべきです。
もっとも良くないのは、その時の都合や気分によって 依頼先をかえることです。 そのような依頼のしかたでは、依頼された側もその時の問題を解決する以上のことはできません。 だれも親身になってそのオルガンのことを考えないでしょう。
一人のオルガン製作者を信頼してオルガンの全体を見渡した保守を依頼することが肝要です。 オルガン製作者が『自分のオルガン』と思えるようにするのが双方によい結果をもたらします。・最後に再び
オルガン製作者が定期的にオルガンを観察し、何が必要か、どこを改良できるかを常に考えていることが大切です。 次の保守・点検の折に何を重点的に行なうか、将来の大規模な保守作業で何が必要かを考察するためにも定期的な保守点検を実施されることをお奨めします。目次へ 01.Nov.99
多くのオルガンを見ると、パイプの並びは鍵盤の並びとは異なっています。 仮にパイプの並びが鍵盤と同じであれば、左が低音で長いパイプ、右が高音で短いパイプ、したがってオルガンのデザインは左が高く右が低い形になります。 鍵盤から出るメカニズムの間隔は14mm弱/半音です。 この間隔ではパイプを並べるには狭すぎます。 鍵盤の幅とパイプの配列との間を受け持つのがローラーボード、ドイツ語でヴェレンブレットと言われる装置です。
目次へ 00.Aug.99
ご質問が多く、また知られていない面、誤解されている点が多いので別項を設けました。
マイスター制度と試験について目次へ 22.Mai.00
しばしば、「パイプは型に流して鋳造するのですか」と聞かれます。 実物のパイプを見る機会があればパイプの裏側をご覧ください。 必ずつないだ痕があります。 材料の板を丸めてはんだ付をして作ります。 一本一本寸法が異なるので、予め大量に作っておいて長さを切って使うというわけにはゆきません。
金属パイプは パイプの胴、足、Kern(足と胴の間にある隔壁、Kernと足の前部すなわち下唇との間に空気が通る隙間を作る)の3つの部分から作ります。 パイプの材料は半田合金(錫鉛合金)です。 それを半田で繋ぐには融点が非常に近いために工夫と熟練が必要になります。 製法の画像などを別ページにまとめるようにします。 しばらくお待ちください。
目次へ Juli.00
オルガンはしばしばオーケストラに例えられます。 沢山の音色を使って複数の声部を演奏できるからです。 そしてオルガンの音栓にはオーケストラ楽器の模倣(トランペットやオーボエなど)がたくさんあります。
そのような意味ではオルガンほど多彩な音色を出せる楽器は他にはありません。しかし、オルガンは、ごく一部の例外(Glockenspiel)を除いて、風で音を出す管楽器です。
弓で弾く弦楽器の音を風で鳴らす管で完全に模倣できるでしょうか? それも鍵盤を通して・・ ある程度の模倣は出来ます(Gamba、Viola、Violoncelloなどの音栓)。 しかし、それは弦楽器の雰囲気を持っている管楽器を鍵盤から演奏するのであり、決して弓で弾く弦楽器と同じとは言えません。
管楽器を模倣する音栓(Flute、Trompete、Oboeなどの音栓)は弦楽器よりは模倣しやすいと言えます。 しかし、息や唇を使って表現する微妙なニュアンスを全て鍵盤で表現できると思い込むのは明らかに間違いです。 私は宮崎県立芸術劇場のオルガンに "篠笛" という音栓を作りました。 これの元になったのは高千穂神社から頂いてきた お神楽に使う笛です。 当初この音栓を "神楽笛" と命名しようかと考えましたが、お神楽の笛の多彩な発音や音の変化を聞くと 『これはとても鍵盤では表現しきれない』と感じるようになりました。 そこで命名は "篠笛" に止めたのです。
オルガンで使うためにこの音栓はお神楽の笛よりも音域は広く作られています。 いかに模倣をしようともオルガンの中で他の音栓との共存も考慮しなければいけません。 オルガンのTrompeteはオルガンの歴史の中でトランペットにより似せることを追求してきたのではなく、オルガンの中でのTrompeteとして発展してきたのです。
仮に、『自分はどんな音でも出せます』というオルガン製作者がいるならば、『傲慢もはなはだしい』と私は考えます。 楽器はそれほど安易に作れるものではありません。
目次へ 10.Sep.00
これも良く聞かれることです。
オルガンを作るには工作能力は必須です。 不器用な人は苦労します。 工作の能力が鍛錬されて指先の感覚が鋭くなり、手を自由にコントロールできるようになり、目が見えるようになっていないと整音には入れません。 いかに耳が良くても 聞いたものを手作業でパイプに還元することができないからです。観察力と考察力も必要です。 幅広く多くの職種をこなさなければならないこの仕事では、仕事を覚えるつもりでいてはいけません。 観察するだけではなく、考察を進めて自分のものにしていなければとても覚え切れるものではありません。 観察は全てに対して、道を歩いていても電車に乗っていても観察sる対象は限りなくあります。 それが我々の仕事の糧となるのです。
初めてする作業も30年来しているような手つきでこなせるようになれればしめたものです。
音を聴く作業は自然に聴いたまま感じたままを表現すればよいのですから難しくないはずです。 表現力がなくて聴いたことを伝えられない人が多いようにおもいます。 あまり力んで聴くと何がなんだか判らなくなって来る物です。 あくまでも自然体で。
論理的思考力も必要です。 情緒的判断で仮に良い結果が生まれても、筋道が通っていなければ次の作品に生かすことができません。 再現性があれば偶然でしょう。 常に観察をして筋道を立てて行く、筋道がわからないものは判らないなりに課題としての筋道を立てておくことができなければいけません。
今まで多くの若者が工房を訪ねてきました。 その中の何人かが一人前になっただけです。 たしかに難しい職業です。 しかし、難しいからこそ挑戦する価値はあると考えます。 そのように考える若者は歓迎します。 『だれにでもできる、易しい・・・作り』などと広告に謳ってある仕事に就きたいとおもう人の気が私には理解できません。
目次へ 30.Sep.00
『オルガンの寿命は数百年』などと言われます。 しかし、よく考えてください。木造構築物でしかもかなり複雑なからくりを擁している楽器が、そうやすやすと数百年もその機能と品質を保てるわけがありません。
現存する演奏可能なオルガンはせいぜい400年前のものでしょう。
そのような楽器も大変な修復を経て今日再び演奏できるようになったものです。
放置しておいたらばおそらく20ないし30年で演奏不可能になるのではないかと想像します。オルガンを永く使うには、まず適切なメンテナンスが必要です。 建築においても10年に一度ていどの修繕をして何十年かの耐用年数が出るものです。 ビルにも大規模修繕工事はつきものです。
オルガンも放置しておいて100年以上使えるというものではありません。 当工房のオルガンでもすでに完成後20年を経たものがあります。 本Webや坂崎さん製作のWebにもオルガン大規模保守作業の様子を公開しております。 このような作業を経て再び10ないし20年その役目をはたすことができるようになります。 完成後10年を目途に大規模保守作業を計画されることが大切です。 10年目を目途にしていても実際にそれを実施できるのは多くの場合それよりもずっと後になるものです。
オルガンの環境によって大規模保守作業が必要になる時期は大幅に変動しますので10年というのはあくまでも大雑把な見当です。丁寧に作ったオルガンであれば、その寿命が50年以下と考える必要はありません。 日本の建築は大体50年を目標に作っているようです。 建築の寿命が原因でオルガンが運命をともにするという可能性があることは残念です。
目次へ 24.Aug.01
現在国内で常時オルガン製作に携わっている工房は当工房を含めて 4個所 と言ってよいでしょう。
他に、常時ではないがオルガンを作っている、あるいはメンテナンスを主に行っている工房が3-4ヶ所あります。
ドイツの場合 170工房は少なくともあるようです。 従業員数は1名から50名ほどまでです。
例外的に従業員200名を抱えるオルガン部品会社があります。 計2500名ほどがオルガン製作に従事していると言われています。目次へ 22.Feb.03
大切な問題です、別項を設けますのでそちらをご覧ください。
目次へ 12.Aug..06
オルガニストはオルガンの中も知るべきです。 またリード管の調律、メカニズムのくるいの修正など 簡単な作業はオルガニストがするべきだと考えます。 ヨーロッパでは当たり前のことです。 ヴァイオリニストが演奏前に弓の張りを合わせ、調弦をし、時には駒や魂柱の位置を調整したりするのは誰も不思議に思わないのに、ことオルガンとなると「中に入ってはいけない」「触ってはいけない」となるのは何とも解せません。
短時間で音高が変化するリード管を常に良い状態で演奏するためにはオルガニストが自分で調律するのが最良の解決でしょう。 オルガニストが調律をする場合には厳密な調律を目指す必要はありません。 また全てのリード管を通して調律する必要もありません。 オルガニストにとって気になる音を気にならない程度に合わせればよいのです。 リード管を傷める可能性は非常に低いので、難しく考えずに実行していただきたいと思います。
仮にリード管を傷めてしまった場合、宅配便で(傷める恐れがあるのは小さ目なパイプだけです)そのパイプを送ってくださればとにかく鳴るようにして返送します。 そして、次の保守作業のときに見直せば良いでしょう。
当工房が関係するオルガンの場合にはその程度のことでは費用はいただきません。 それよりも、オルガニストがオルガンにそれだけ親しみを持ってくださっているということの方が喜ばしいことです。メカニズムの調整もどこを調整するべきかを知ってしまえば難しいことはありません。
ご希望があればリード管調律講習会を開催いたします。
あるオルガン輸入会社の担当者は オルガニストがオルガン内に入ることを禁じていると聞いいています。
「責任が持てない」ということのようですが、前記のような問題があったときに対処する能力がないということうを言っているのでしょう。
ホールの管理者にも似た発言がしばしばあるようです。 オルガニストは弾く人形ではないのです。オルガン全体に渡ってオルガンをできるだけ知ることが演奏の肥やしにもなることを肝に命ずるべきでしょう。
そして、オルガンを知っているオルガニストはオルガンに不具合があっても簡単には動じることはありません。著名なオルガニストは例外なくちょっとした調律などを当たり前にやっています。
構造をよく観察して実行すれば怖いことではありません。 オルガニストだけではなく、オルガンに関わる意欲のあるかたは是非実行してください。目次へ 2.Dez..06
オルガンに鍵を掛けて絶対に弾かせないということは決して良いとは思いません。 まして、興味を持った子供にその道を閉ざしてしまうことには賛成出来ません。
おもちゃとしてオルガンを与えるのは間違いです。 しかし、興味を持って弾いてみたいという子供には是非オルガンに触れる機会を作ってください。 そしてきちんと弾くことを教えてください。教会であれば、子供の礼拝・子供ミサ の時に、子供にオルガンで讃美歌・聖歌の伴奏をしてもらうのは良い機会だとおもいます。
子供が弾いてオルガンが壊れたら、それはオルガン製作者の責任です。 弾かせた大人の責任ではありません。
そもそも、私はオルガンに鍵は不要だと思っています。
目次へ 1.Maerz..07
口で笛を吹く程度、どんなに高くても金管楽器を吹く程度 です。
U字形に曲げたガラス管に水を入れ、一方から圧力を掛けます。 圧力を掛けた側の水柱は押し下げられ、他方の水柱は押し上げられます。両水柱の高さの差を読んで圧力を計ります。
単位は 水柱○○mm あるいは ○○mmH2O、○○mmWS(【独】Wassersaeule水柱)などと記します。
水柱10mm≒1/1000気圧
オルガンに使う圧力は 一般的には水柱40mm〜水柱120mm程度です。
多くのオルガンは1/100気圧にも満たない圧力で鳴っているのです。
比較として 掃除機の吸引力は 1/10気圧程度です。実際には吹子に載せる重りの目方で圧力を調整します。
圧力=重りの重さ/面積(パスカルの法則)
ですから圧力が高ければ大きな重り、面積の大きな吹子であれば大きな重りが必要になります。目次へ 1.Maerz..07
弱い地震であっても調律がくるうことはあります。 パイプが内部で回転してしまい、歌口の方向が変わることが主原因だと思います。 小さく作った楽器(パイプが密集している)ではかなりのくるいになることもあります。 パイプの向きをもどしてやればほぼ正常になるでしょう。
震度4以上の場合にはオルガンを点検するべきでしょう。
全ての音栓を一つ一つ引いて最低音から最高音まで一音一音鳴り具合を点検します。
パイプが外れているかもしれません、鳴らないパイプ、鳴っていても音が下がっているパイプ、鳴っていても弱いパイプ、鳴っていてもパイプの足元から風が漏れているパイプ がないか点検してください。
見つかった場合には、すぐにパイプを正しい位置に戻してください。 パイプを見つけるには音を出したままにして、パイプ室内を探せば見つけやすくなります。 簡単なことです、心配は要りません。 1週間もしますとパイプが自重で曲がり始めます。修理は面倒になります。外れやすいのは実長 4' 〜 2'(背の高さ〜腰の高さ程度)のパイプです。 それよりも長いパイプはパイプの上の方で固定していますので、外れることはまれです。
急ぐときは、16'、8'と4'音栓の低音部を点検するだけでもほとんど用は足りるでしょう。震度5以上の地震の場合、正面パイプが外れるかもしれません。 最初に全体を目視点検してください。 正面パイプが外れかかっている場合には、落下する恐れがあります。近寄らないでください。
手におえないと思われる場合には普段メンテナンスを担当しているオルガン製作者に依頼してください。 予算がどうの ・ ・ などと言っている間に問題が進行する場合もあります。
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弾くことは楽器にとって良いことである。
弾いて楽器に悪いことは一切ない、弾かないことは楽器に一番悪い。
弾かれることによって楽器は命を与えられ、無機物から生きた楽器になるのである。 弾く(音楽をするという行為)ことは常に行われるべきである、それでこそ楽器は生かされる。楽器をおもちゃにしてはいけないが、真摯に練習したい子供を楽器から遠ざけてはいけない。弾いて傷むようなオルガンであれば、それは製作者の責任である。
日本ではしばしば「弾き込み」という表現が使われるが、好ましい言葉ではない。「弾き込み」をしなければならないほどに使われない楽器は不幸である。
普通に楽器を使用していれば「弾き込み」などという非音楽的な表現でわざわざ楽器を鳴らす必要などないはずである。
可能な限り門戸を開放し、多くの人に音楽をする機会を提供するのが貴重な楽器を保有する人の責務であろう。ヨーロッパの音楽大学で練習楽器を十分に保有するところはほとんどない。また保有しようとも考えていないであろう。近隣の教会などが学生に当然のこととして楽器を提供するからその必要がないのである。重要文化財級の楽器ですら学生の練習に提供されている。
楽器も生き、学生も良い楽器に学ぶ。 オルガンは一台々々異なるから色々な楽器を経験できる学生も幸いである。楽器を保有する複数の施設がお互いに 使ってもらう 使わしてもらう という連携関係ができれば良いと考えるが、国内でそのような例を知らない。 音大で最初から最後まで同じ楽器しか経験できないとすればそれは不幸である。いろいろな楽器に触れ、その違いを感じ、楽器ごとにどのように 使うか 鳴らすか を学べる環境を作ってほしい。 楽器を保有する教会・学校・施設 はもっと寛容になって欲しい。
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