工具のページ 1

オルガン製作ほど多様な道具を必要とする職業はないでしょう。
その多くは市販の工具です。 市販の工具が具合が良くない場合、あるいは手に入らない場合には、自作するか市販のものを改造することになります。 

『注文しに行っている時間にできるようなものは、自分で作る』  ことです。

ここでは、そのような工具あるいは機械類をいくつか公開いたします。 この後は「工具のページ2」 「工具のページ3」 「工具のページ4」 「工具のページ5」 「工具のページ6」 「工具のページ7」 「工具のページ8」 「工具のページ9」 に続きます。





木製締め具

私の工房ではもっぱらZwinge(ツヴィンゲ)と呼んでいます。 金属製の物もたくさん持っていますが、以前から作りたかった木製のZwingeを今回作りました。

軸以外は木製、いたや楓を使っています。
偏芯したレバーで締め付けます。

もちろん金属製のZwingeのように強力ではありませんが、非常に使いやすく(とにかく軽い、そしてレバーひとつで締めることができる)早速多用しています。

長さは3種類、一番長いものは800mmです。 合計130本ほど作りました。

軟鉄を鏨(たがね)で切って焼印を作り名前を入れてあります。

Feb.2002



洗濯機の脱水モーターを利用。左の回転軸には上下にボールベアリングを使用している。プーリーなどはぶな材の挽き物。

Kulpgeraet

 金属パイプの足の先、空気が入ってくる部分を丸める電動工具です。
 回転部分の中央、円錐形の絞り金具は銅の鍛金加工、接合面は意図的に重ね合わせて段を作って銀ロウ付にしています。
 この段差があるおかげでパイプ足先の絞込みが可能になります。
現在は2種類の絞り角度を使えるように改造し、作業が早くかつ仕上がりがきれいになりました。当初は単軸1990年作

Stimmhorn と Stimmglocke

金属管を調律する工具です。 パイプの頭を閉じて音を低くする、またパイプの頭を広げて音を高くする時に使います。 一般にパイプの頭は少し閉じた状態で音の高さが正しくなるようにします。

10本のStimmhorn(調律喇叭の意)と4個のStimmglocke(調律鐘の意)は全て自作です。 既製品もありますが、非常に重い上に、これほどの種類はありません。 2本で一組、凹円錐の角度が2種類あります。 パイプを痛めずに調律するために交互に使用します。 柄の部分に溝を作って、手触りだけでどちらの角度の工具か判別できるようにしてあります。

細いStimmhornは柄を長くしました。 リード管の向う側にあるMixturなどを調律する時に非常に楽です。 これも既製品にはありません。

現在では無くてはならない大切な工具となっています。




Reisestimmhorn

 調律用の工具です。 円錐部分は銅または真鍮板から鍛造、接合面は銀ロウ付けです。

 オルガンの調律のくるいは高音部で目立ちます。 大きな工具を持ち歩けない場合、これだけでもあると助かります。

 このStimmhorn(調律円錐)は 柄 と円錐部分を分離することができます。 真鍮の木ねじをロウ付して木製の柄とつないでいます。 狭くて柄が付いていては入らないような場所でも円錐部分を外せば入るように考慮してあります。(下の画像)

画像の背景は

Jacob Leupold 1726/Leipzig
 THEATRI STATICI UNIVERSALIS

のFaksimille版です。

整音用ハンマー

金属管の歌口付近の調整や足穴の調整に使用します。 非常に小さなハンマーなので中々見つかりません。 中央のハンマーだけは現在でも彫金関係の工具屋さんで手に入ります。

 一番小さなハンマーは尾の部分の角度を少し調整して使えるようになりました。 現在は入手困難と思います。

 程よい大きさのハンマーが見つからなかったため、右のハンマーは自作です。 打撃する頭の方は鋼材で焼きが入っています。 断面が正方形の部分から尾にかけて軟鋼を使っています(柄を入れる穴をあけるため)。接合は銀鑞付け。


自動スイッチ

 ひとつの機械に連動して別の機械を起動したい場合、この仕掛けを使っている。

電流センサー(変流器)、2個のIC、トランジスタ1つ、ダイオード、コンデンサー、抵抗で構成した回路で、電流がセンサーの中を流れると別回路がONになる。 このようにコンセントとして作っておくと非常に便利。

グラインダーと照明
ボール盤と照明
砥石切断機と冷却水ポンプ
木工機械と集塵器 などに使っている。

OMRONに商品として作ってくれるようアイディアを提供したが、まだ商品としては出てこない。


革ナット削り出し工具

オルガンのメカニズム調整個所に使う"革ナット"を牛革から削り出す工具。 市販の直径10mmの鋼丸棒を削り出して製作。 中央には1.6mmのドリルを取付け、下穴を同時に加工できる。

従来革ナットはドイツのオルガン部品供給会社から買っていたが、革の柔軟性に問題があり感心しなかった。 これで、牛革を吟味したうえで革ナットを自給できるようになった。


 主に、音栓メカニズム(ストップ機構、スライダーとストップつまみを連結する)を作るときに使う治具。 画像では外径16mmの鉄パイプ(動きを伝える回転軸になる)に鉄の腕を鑞付(ろうづけ)する準備をしています。

 工房で鑞付けを始めたころはいろいろ苦心しましたが、溶接もできるように設備が整い、このような治具の製作も比較的簡単にできるようになりました。

 鑞付けは溶接と異なり、異種金属を介在させて金属を接合する技術です。 はんだ付けも鑞付けの一種です。 はんだ付けはやわらかな金属を使い低温で可能です、軟鑞と呼ばれます。 それに対して 銀鑞、金鑞、真鍮鑞、銅鑞 などは硬鑞と呼ばれます。 上等な自転車のフレームは必ず銀鑞で組み立てます。

 左の画像は 銀鑞付けをした結果です。フラックス除去の後処理をする前の状態です。

 ドイツに居たときには町の鍛冶屋さんに依頼できました。 現代の日本では、そのような町工場は全てと言ってよいほど大企業の下請けに組み込まれてしまっています(少なくとも工房の近辺では)。

 自分でしなければならない結果になりました。 しかし、そのように強いられた結果自分の技術が増え、そして製作の可能性も増えることになりました。
私はそのような環境が幸いしたと思っています。

薄鑿

 自作の鑿(のみ)です。
上の写真は 刃裏 からみたところ。
下の写真は横から見たところ、刃が薄いことがよく見えています。

 刃 が薄く繊細な鑿が欲しかったので作りました。 とは言っても刃物鍛冶仕事は自分ではできません。

 刃はシラガキを切って使っています。 安物の2分の鑿の刃を切り落し、そこに新しい刃を溶接しています。 刃がなまらないよう濡れた雑巾で覆って溶接しました。 三つ裏にしてみました。 柄は常識に反してヒノキを使っています。 手作業がしやすいように長めに作ってあります。 軽くまた汗をかいても滑らずヒノキは悪くないと感じています。 叩くことはありませんので冠は付けません。

小カンナ

私の一番小さなカンナです。
 これは作ったのではなく、古道具屋から手に入れました。 多少手を入れて便利に使っています。

 刃は、おそらく昔のたばこ包丁を折って作ったものと思われます。

狭いところの面取りなどには無くてはならない道具になっています。 無くさないように神経を使います。


可般型吹子

 実験やちょっとしたパイプの準備、現場での整音に使えるように作ってあります。 木管を作る会 の時にも活躍しています。

下の箱にはナショナルのリードオルガン用電動送風機(消費電力30Wほど)が入っています。

その風は上の蛇腹型吹子に貯められています。この吹子の上に載せる重りの量によって風圧が決まります。

風圧は上の画像右に取りつけてあるU字管風圧計によって計ることができます。

その右上の出っ張りは超小型風箱です。 ひとつの音しか出せませんが、パイプのテストには大きな助けです。

下の画像は 吸入口です。 吹子が膨らむと吸入口をカーテン弁で閉じます。 空気を消費して吹子が下がるとカーテン弁は閉じます。 単純な紐を使った自動制御機構です。 大きなオルガンでも仕掛けはほとんど同じです。

50Hz地域では50mmH2O程度の風圧がやっとです。 60Hz地域では60mmH2O程度まで使えます。

それよりも高い風圧を要するときにはインバーターを取りつけて使っています。 オルガンにはOMRONの静音インバーターをお薦めします。

歌口罫書き工具

 パイプの歌口の高さを罫書くための道具を作りました。 英国式のスプリングコンパスを改造しています。 罫書き針はコンパスの針をそのまま流用。
鉛筆の芯の代りに真鍮2φ棒に段欠きをつけたものを取りつけています。 この段を下唇に当てて上唇の位置を罫書きます。 細かな設定が容易にできます。 大きなパイプ用にディバイダーを改造した工具も作っています。

 以前は、祖父が大正時代にドイツ留学中に購入したスプリングコンパス(カラズ口付き)を使っていました。 小さいので紛失しないよう注意していたのですが、2000年冬の中新田バッハホールでの大規模保守から帰ってから行方不明です。 ねじに遊びが全く無い質の良いものだったのです。

 今回は頭にカリンの柄を伸ばして目立つようにしました。 紛失を防ぐためです。

背景は歌口高さを記したダイアグラム

風漏れ探索用聴診器

  ほんの少しの風漏れでも音がすると気になるものです。 そのような場所を特定するのは必ずしも簡単ではありません。 そのような時にこの聴診器は活躍します。

  探索子の先端は外径3mm内径2mmの真鍮パイプです。 聴診器の管と繋ぐところは真鍮を旋盤で加工して作りました。 3mmの真鍮パイプは単に圧入して固定してあります。

  このように細いパイプを使うと非常に指向性が強くなるようです。また周波数特性も高域に偏るようです。 もう少し太目の探索子も作っておいたほうがよさそうです。

工具のページ2 へ 工具のページ3へ 工具のページ4へ 「工具のページ5」
工具のページ6へ
工具のページ7へ 工具のページ8へ 工具のページ9へ 工具のページ10その他の工作1へ

工房の頁へもどる
須藤オルガン工房のホーム

400x300 Pixcel als Norm.